
提携事例1:日本の大手自動車部品メーカーアイシンと イスラエルのスタートアップ Vayyar社の提携事例






〜日本のアイシンが米ペガサスが運用するCVCファンドから戦略投資の実行、
投資後にVayyar社との業務提携に成功〜
子どもの社内放置検知システムを共同開発
<概要>
株式会社アイシンとイスラエルのスタートアップであるVayyar(ヴァイヤー)は、2023年に「子どもの車内放置検知システム」に関する共同開発プロジェクトを発表しました。
本プロジェクトの主な目的は、乳幼児が炎天下のクルマの中に置き去りにされ、熱中症で命を落とすような事故を防ぐシステムの開発でした。
Vayyar(本社:イスラエル )は、「ミリ波レーダー」という特殊な電波を使って、物や人の動きを4Dでとらえるセンサー技術を開発するテクノロジー企業です。 この技術は、カメラ不要でプライバシーを守りつつ、リアルタイムで高精度なデータを取得できる点が強みであり、ヘルスケア(転倒検知)、自動車(車内モニタリング)、セキュリティ(不審者検知)、スマートホーム(見守り)など多様な分野でソリューションを提供しています。
アイシンは、トヨタ自動車グループに属する 、自動車部品およびエネルギー関連機器の開発・製造・販売を行う大手自動車部品メーカーです。2018年に優れた技術を有する企業の最先端技術を活用することを目的にファンド事業を行う連結子会社を シリコンバレーのPegasus Tech Ventures内に設立して日本円で約75億円※1のファンドを組成し、オープンイノベーション活動を進めてきました。Pegasus Tech Venturesは2018年にVayyarアイシンに紹介し、投資を実行するに至りました。同時に事業シナジーの検証をすすめ2023年7月には子どもの社内放置検知システムの共同開発における戦略提携を発表しました。
<具体的な課題と解決策>
近年、炎天下の車内に子どもが取り残され、熱中症によってを落とす事故が世界各地で発生しています。あるアメリカの調査データによると、1990年から2023年の34年間で累計1,083人の子どもが車内放置により死亡しており、直近5年間では年間平均 約40人が犠牲になっています※2。日本でも、2023年9月の猛暑日に、保育園の送迎バス内に3歳の子どもが約5時間放置され、命を落とす という痛ましい事故が発生しました。
こうした事故の背景には、大人が子どもの存在を一時的に 忘れてしまうといった「人的要因」、保育業界における深刻な人手不足といった 「社会的要因」、さらにはチェック体制の不備などの「組織的要因」といった、複数の要因が絡み合っていると言われています 。しかし、こうした問題が認識されながらも、実効性のある対策が十分に進んでいないのが現実でした。その結果、根本的な解決には至らず、安全対策の強化も不十分な状況が続いています。
一方で、近年、園児の車内置き去り事故が発生するたびに社会的 関心が高まり、行政や企業にも迅速な対応 が求められるようになっています。実際にアメリカでは、車内に取り残された子どもを検知するシステムの設置を義務付ける法案が提出され、ヨーロッパ
でも、新型車の安全性評価を行う公的機関が、子どもの車内放置を防ぐ機能を自動車の安全技術の一つとして求めるロードマップを発表しています。国や地域によって対応に差[RI1] はあるものの、こうした技術を 新型車に標準装備することで 、悲惨な事故を未然に防ごうという意識が広がりつつあります。こうした動きは日本でも進んでおり、2023年4月からは全国の送迎バスに対して置き去り防止安全装置の設置が義務化されるなど、事故防止に向け化されています。
※上記の写真はAI Thinkより引用
こうした社会的な背景を受け、アイシンはVayyarとの協業を推進しました。この協業では、アイシンが長年培ってきた自動車の安全技術開発に関する知見と、Vayyarの最先端4Dミリ波レーダー技術を組み合わせることで、より高度な車内検知システムの実現を目指しました。
特に、共同開発された[RI1] 技術の大きな特長は、座席の陰やブランケットの下にいる園児の微細な動き(呼吸・心拍など)を感知できる点にあります。従来のカメラや赤外線センサーでは検知が難しかったケースにも対応可能で、より確実な安全対策の提供が[RI2] 実現しました。また、ミリ波レーダー技術を活用することでカメラを使用せず、プライバシーを確保しながら高精度な検知が可能となっています。これは、保育施設や家庭での導入において、子どもの安全を守りながらも プライバシーへの配慮を求める声に応える重要なポイントとなっています。
対処フローの一例
※AI Think 「子どもの車内放置検知システムで、明日の“笑顔”を守りたい。」より引用
この協業により、アイシンの高度な車両統合技術と、Vayyarの高精度なミリ波レーダー技術が融合し、実用的かつ市場性の高い園児置き去り防止システムが開発されました。アイシンが持つ自動車業界での信頼性と製造能力、Vayyarの革新的なセンシング技術を掛け合わせることで、単独では実現が難しかった新たな安全技術のスタンダードが確立され、社会全体の安心・安全の向上に貢献することが期待されています。
<参考資料>
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AI Think(アイシン社運営メディア):子どもの車内放置検知システムで、明日の“笑顔”を守りたい。
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Vayyary automotive社 公式HP:Aisin and Vayyar Join Forces to Prevent Vehicular Heatstroke Tragedies in Japanese Kindergarten Buses
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アイシン社 公式HP:子会社等の異動(設立)のお知らせ
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AT PARTNERS:先進的な画像処理コンピュータチップVayyarのソリューションが日本で採用され、「忘れられた赤ちゃん症候群」を解決
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※1参照:$=150円を想定
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※2参照:KidsAndCars.org 「Child Hot Car Deaths Data Analysis 2023」